授業実践⑥

今回の授業実践は「モンゴル帝国・元」です。

「自意識」をテーマにしたことが新たな試みでした。元寇があった中、日本と元の民間貿易が行われていたという事実を取り挙げています。

 

授業の狙い(気付かせたいこと)は、以下の通りです。

①自分と当時の人々の感覚(自意識・戦争観)が異なる。戦争という点において、現在の方が野蛮なのかもしれない。

②それは強烈な「国民」という意識(の強制)によるものである。

③「国民」という意識はどのように形成されたのか?という今後の歴史への問いを持つ。

 

さて、どのような授業展開だったのか説明します。「自意識」に関する展開は以下の通りです。

①イメージマップを使用して、「元」に関する生徒の既有知識を確認する。(生徒は自らの既有知識を自覚する)

②多くの生徒に「元寇」に関する知識があることを確認する。

元寇のあったころ、民間貿易はどうなっていたか予想させる。(大半は「なかった」に手を挙げる)

元寇のあったころ、日本と元の民間貿易が行われていた事実を取り上げる。

⑤この事実について、「普通だと思う」か「違和感がある」か理由とともに説明させる。(違和感がある、と答えた生徒は「戦争中に相手の国に行くと、現地で襲われるのではないか」と理由を述べた)

⑥『世界の歴史』の記述から、筆者の考えを読み取る。

⑦授業者から、この教室で大半を占める意識(国民意識)は実は奇妙なことなのではないかと問題提起をする。【会ったことない人と会ったことない人の対立により(政府と政府の対立)、会ったことない人(自国の政府)から会ったことない人(相手国に住む人)への憎しみを持つことを強要される雰囲気】

⑧授業前と違った見方があったか、それはどのような点か振り返りをする。

 

授業後の授業者の感想・疑問は以下の通りです。

①このタイミングで、国民意識への疑問を持たせられたのは良かった、かな。

②元と日本の民間貿易を「国民意識」へつなげる教材とするのは、妥当性があるのかどうか。

 

「国民」は本当に難しいです。

色々とご意見よろしくお願いします。

 

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新テストに向けて

5月には定期テストがありました。

現2年生は新テストを受けることになります。

したがって、日々の授業や定期テストもこの新テストを見据えて準備していくべきでしょう。

 

大学入試センターの共通テストのページには
作問のねらいとする主な「思考力・判断力・表現力」についてのイメージ(素案)が公開されています。この資質から逆算して問題を作成しました。

https://www.dnc.ac.jp/sp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30_1111.html

 

イメージした資質は以下の部分です。

背景、原因、結果、影響に着目して歴史の諸事象相互の関連を明らかにすることができる(事象相互のつながり)

 

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授業では「日常生活から見る世界の歴史」として、コーヒーを取り上げていました。(僕自身とてもコーヒーが好きなので)

ただし、コーヒーブレイクに関する資料は授業では扱っていません。生徒は初見の資料を読解することになります。授業で取り扱った資料に関わる問題は、授業以降の生徒にとって知織化されています。本当に思考力を問うためには、初見となるような問題をストックしていかなければならないのではないでしょうか。

 

作ってみて、国語のテストといわれれば国語のテストだなと思います。

ご覧いただいて改善点など指摘していだければ幸いです。

 

授業実践⑤【世界史A】

新学習指導要領の世界史探求を見据えて、日々教材開発を行っています。今回設定した単元は「東アジアの文明圏はどのような世界だったのか」です。

 

新学習指導要領には以下のような記述があります。

ア 次のような知識を身につけること。

(ア)秦と漢と遊牧国家、唐と近隣諸国の動向などを基に東アジアと中央ユーラシアの歴史的特質を理解すること。

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア) 東アジアと中央ユーラシアの歴史に関わる諸事象の背景や原因,結果や影響,事象相互の関連,諸地域相互の関わりなどに着目し,主題を設定し,諸資料を比較したり関連付けたりして読み解き,唐の統治体制と社会や文化の特色,唐と近隣諸国との関係,遊牧民の社会の特徴と周辺諸地域との関係などを多面的・多角的に考察し,表現すること。

 

この記述といくらかの教材研究を踏まえて、MQと構築したい歴史像、歴史像を構築する教材を以下のように整理しました。

 

MQ「東アジアの文明圏はどのような社会だったのか」

歴史像①「農耕社会と遊牧社会の共生・相克」

教材①「万里の長城

歴史像②「中華思想とそれに基づく冊封体制

教材②「唐に赴く外国使節」帝国の資料集から

歴史像③「中国を中心とした、共通の文化要素の形成」

教材③「長安平城京、上京竜泉府」

 

今回は「振り返り」で問う内容をかなり知識よりにしました。ここを見れば、生徒の理解度が分かります。

 

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実施後の感想

前回同様、作業のときに生徒によって完成のスピードに差がありすぎます。教科書と資料集から、万里の長城の位置とその南北の自然環境をまとめるというものです。ある生徒が万里の長城を書いているときに、ある生徒はワークCまで終わってることがありました。

 

このような差(を生まないために)を先生方はどのように対応しているでしょうか。

 

冊封体制をつかませる教材、皆さんはどのようにしているでしょうか。。

 

東アジアを扱うときは中国王朝を歌で覚えることを恒例としています。図は、YouTube大学のオリラジあっちゃんの板書が分かりやすいと感じたので大いに参考にしました。(丸パクリ)。ただ、魏晋南北朝のところをどう表現すればよいか悩んでいます。

 

東アジアの略地図は、帝国書院の教科書の東アジア文明のページにある地図から作成しました。以前、twitterでよーへい先生が紹介していた方法です。iPadに教科書の図を挿入し、その地図をペンシルでなぞり、画像を消す、というやり方です。情報量が最小限になるので、生徒のストレスも少なくなると感じました。

 

twitterで公開されている教材やツイート、研究会や書籍の情報に日々刺激を受けています。ありがとうございます。

授業実践④【日本史B】

歴史家の文章を読んで、生徒自身がある歴史像を獲得していくことを狙う実践です。

全ての授業で、一次史料を教材にしながら、歴史家のように歴史像を構築していくことが理想ですが、内容によって難しいことが多々あります。そこで、歴史家の文章をそのまま教材化できないかと考えました。歴史教員が教材研究のときにしている思考を追体験させるイメージです。

 

学習活動は

①教員が前提知識を講義

②生徒がペアで教材を音読

③個人思考(問いについて解答)

④ペアで確認

⑤教員が生徒を指名、全体で発表

講義よりのALでしょうか

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この実践は、宮本英征「・・・の論文を読んで答えるタイプの実例」『社会科教育』を参考にしました。

https://www.meijitosho.co.jp/edudb/detail.asp?code=03620_086

授業実践【世界史A】

世界史Aの授業実践です。

「文明」をテーマにしました。

 

今年度、新たな試みが3点ありました。1点目は、本質的な問いを「過去の世界と現在を比較する」ものにしたこと。2点目は、教科書や資料集から、自分で「調べてまとめる」時間(活動)を設定したこと。3点目は、歴史家の文章を資料として活用していくこと、です。

 

新学習指導要領には「知識・技能」として、「調べまとめる技能」が育成すべき資質として設定されています。これを見据えて、活動を設定してみました。

興味深く感じたのは、生徒によってかなり完成時間にばらつきがあったことです。言い方は適切ではないかもしれませんが、学力と相関関係があったように思います。

調べてまとめる、時間を設定すれば、生徒は自ら教科書や資料集の情報に触れることになります。生徒によっては、興味関心が引き立つ時間なったようです。

 

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授業実践②

Twitterを通して、「歴史的共感(エンパシー)」という概念を知りました。

 

これについては勉強不足ですが、以下の様な記述を見つけました。引用です。

 

3.「国や社会における過去の問題状況の中で,なぜ彼/彼女はその行為を選択したのか?」 ~過去の課題における歴史的共感(エンパシー)に基づく主権者育成
(歴史的アプローチ)~
これは,過去の国や社会に生じた諸問題・事件などにおける主権者の行動・判断について, 他者視点取得(perspective-taking)の視点から探究させるものである。そして,その探究の 延長線上に,生徒に主権者としての自らの在り方を省察させることを意図する授業である。
このアプローチは歴史的共感(エンパシー)に基づく歴史的探究の一形態を取り,次期学習 指導要領の高等学校地理歴史科「世界史探究(仮称)」においても,主権者育成を意図する際 には有効なアプローチとなろう。

http://www.essdra.fan-site.net/nii.pdfより

 

「エンパシー」の獲得を狙いとした授業が、「他者視点の獲得」や「価値観形成」に繋がるのだとすれば、歴史教育として意義のあるものになると考えました。(市民的資質の向上)

 

エンパシーの獲得を狙いとした授業の試案です。教科書と日本史探求だけで作ったので、教材研究としては浅いかもしれませんが。。

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発問と学習活動は以下のような流れで行いました。

①歴史的事象(ある主体の行動・状況の説明)を紹介

②自分が当事者ならどうするか考える。

③ワークシートに記述。

④ペアで確認。

⑤教師が机間指導で見て回り、何人かに発表させる。

⑥当時の時代背景などについて、教師が講義

⑦なぜ、その行動をとったのか改めて考える。ワークシートに記述。ペアで確認。発表。

 

⑥の部分が資料の読み取りでできれば、なおいいと思いましたが今回はできませんでした。

学習活動としては、溝上の「内化-外化のサイクル」を意識して取り組みます。

 

「エンパシーの獲得を狙いとする授業」は市民的資質の向上を実現する方法として、比較的組みやすいものではないかと思いました。

まだまだ勉強しなければなりませんが、ほかの実践例や情報、授業への指摘・改善案等あれば是非よろしくお願いします。

 

 

 

『世界史単元開発研究の研究方法論の探求 市民的資質育成の論理』①

宮本英征『世界史単元開発研究の研究方法論の探求 市民的資質育成の論理』2018

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読書ノートです。

 

本書は課題を3つ設定しています。P1より引用

(1)世界史教育において育成する、一人一人の学習者が主体的に国家や社会に関わる市民的資質を解明する。

(2)世界史単元で市民的資質を育成するために、歴史の取り扱い方をどのように変革すればよいのか明らかにする。

(3)市民的資質を育成する世界史単元を開発するための世界史教育論、世界史授業論、世界史評価論を連関させ体系的なものとして究明する。

 

課題(1)が設定される理由は、社会科の本来的な教育目標である市民的資質の育成の検討が不十分であったためだとされています。

市民的資質の定義は、前回紹介した論文にある通りです。本書では、その定義は提示されていません。「学習者が世界史教育を通して言葉と価値観との関係を俯瞰的に再構築し、自ら価値判断を行える資質」(P2)とか、「歴史をパーソナルに語る市民的資質」と説明されています。

 

「歴史をパーソナルに語る市民的資質」は、「歴史を言説へ、さらに、学習者自身の言説へ再構築し、歴史をどのように語るのかを主体的に反省する資質」と定義されています。(P5)

 

「歴史をパーソナルに語る」というキーワードは、岡本充弘『開かれた歴史へー脱構築のかなたにあるもの』(2013)の「個々のなかにある歴史」を参考にしたものです。

例えば以下のような記述が岡本の著書にあります。「過去への認識はすべての人がそれぞれのかたちで保持しているものである。(中略)そうした媒介を通して、過去の事実は認識されあるいは想像されている。個々の人々は、様々な媒体をとおして得られる知識をもとに、それぞれによって異なる過去についての記憶を構築している。」(P224.225)

私たちは揺るぎない客観的なものとして歴史を共有しているわけではない、ということだと私は解釈しています。

 

脱線してしまいますが、岡本はここから「歴史研究者の語る歴史が、個々それぞれにある歴史よりも事実性において優れているわけではない。」(P226)と続けます。これに関しては、共感しきれない自分がいます。この考え方を歴史教育につなげるイメージが持てません。事実性の検討は保留して、記述から読み取れる語り手の目的や価値観を分析する、というならイメージできますが。